平成13年6月6日
文部科学大臣政務官水島裕


 再生医学による失明者半減技術確立プランが本省内でまとめられてから、聴覚障害者や耳鼻科学の専門家、そして省内からも高度難聴に対する再生医療技術の確立も考えてはどうかという声が多く寄せられた。高度難聴者のうち、ほぼ完全に聴覚がない人は日本で30万人いる。かなりの難聴者も含めると50万人以上おり、視力障害者とともにわが国でも大きな問題となっている。現在、人工内耳が開発されある程度は利用されているが、実際に会話の中に入れるほど聴覚が増すわけでもない。また電極費用だけでも一件につき200万円以上かかり、特許の関係で外国製のため、多くの費用が外国に流出している状態で、人工内耳は今後の発展を考えても、患者やわが国にとって満足できるものではない。
 さて、高度難聴者の原因は、現在のところ不明なものが一番多く、その次にウイルス感染、薬の副作用、免疫異常などが考えられているが、興味あることにほとんどすべての疾患で内耳の有毛細胞に欠落があり、この有毛細胞さえ再生できれば大部分の高度難聴者が救われる可能性が出てきた。有毛細胞は音の振動を神経のシグナルに変えるもっとも重要な細胞である。再生医学の進歩以前は内耳の再生はほとんど望みがなかったが、ここ数年の再生医学の進歩で、網膜と同様、にわかに内耳再生が有望視されている。特許その他の理由で研究が秘密裏に進められている可能性もあるが、諸外国からの報告はきわめて少ない。一方、日本では京大耳鼻科の伊藤教授をはじめとし、網膜再生の研究と同様、ある種の神経幹細胞を内耳(内耳の蝸牛)に移植したところ有毛細胞様の細胞に分化、生着するというpreliminaryな報告も出てきた。網膜と異なり内耳に幹細胞を移植する場合は、頭蓋骨を切除するなど小手術が必要であるが、内耳への細胞移植手術自体は、他の手術経験からほぼ確立しているといってよい。
 以上のような状態から、文部科学省としても高度難聴者の再生医療技術確立を進めるべきではないかと考え、現在日本で最先端を走っている伊藤教授に、そのプロジェクト案をまとめていただいたので以下に示す。
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