はじめに
 脊髄損傷により寝たきりや車いすの生活を強いられている患者が現在日本には10万人位おり、さらに毎年約5千人が損傷を受けていると推定される。これらの患者は残された機能の維持のためリハビリテーションを行ない、生活のための電動車いすなど生活支援を受けている。しかし、患者の真の希望は自分の足で立って歩き、四肢の感覚を取り戻すことである。そのためには近年急速に進歩した再生医学を活用することが最も有利と考えられ、著しく研究が進んだ結果、標題のプランが今や可能となってきた。


現 状
 脊髄損傷の発生原因としては交通事故がほぼ半数であり、続いて転落・転倒、スポーツ外傷などがこれに続く。損傷部位は頚髄が全体の3/4である。初期は別として6ヶ月以上経過すると症状が固定し、麻痺した筋肉の萎縮は増大する。現在ラットにおいて実験が行われているが、損傷を受けた脊髄を再生させる方法としては、神経幹細胞を損傷した局所に注入する方法が、慶応義塾大学や京都大学のグループによって進められている。特に慶応義塾大学では神経系の幹細胞の識別・摂取法や増殖・分化法について世界的なレベルの研究が進み、脊髄損傷の再生医療の基礎を固めている。すでに両グループらによって外力によって脊髄に損傷を受け、上肢麻痺あるいは下半身不随となったラットの機能が回復することが認められ、後者の場合は歩行も可能になった。


今後の課題
 損傷脊髄を再生させる幹細胞として、どの幹細胞(たとえば神経組織由来の幹細胞(神経幹細胞)、ES細胞や骨髄間葉系細胞から得られるもの)を使用するか、どのような成長因子などをどのような方法で作用させるかなどを検討する。拒絶反応を受けにくい中枢神経系であっても、いかに拒絶反応を防ぐか、それによりオーダーメイドではなくレディメードのものが使えるので、これも重要な検討課題である。


スケジュール
 基礎研究、ラットの研究、大型動物や臨床研究も含めると10年間くらいかかると思われるが、5年程度でほぼ見通しが立つのでその時点で一度評価する。日本において発見されたものはすでに岡野教授らのグループなどで特許をとっている。



終わりに
 脊髄神経の再生に関する基礎研究は本邦でかなり進み、今後国が十分支援すれば、現在脊髄損傷が原因で寝たきりや車いす使用の患者が大幅に減るものと考えられる。また脊髄損傷の再生研究では整形外科医の協力がぜひ必要である。すでに徳島大学井形名誉教授(整形外科学)などは、人為的に作ったラット脊髄損傷の進行を止めたり、回復を早める薬物療法などの研究で大きな業績をあげている。結論として、標題のプランは国と専門家の協力により十分成し遂げられるプロジェクトと考えられる。

2001年6月15日

(文部科学大臣政務官 水島 裕)

●これは2001年4月頃書かれたものであるが、その後も進展が見られているので、いずれ紹介する。
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